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DEAD OR ALIVE



 ――第一章――


「ふわ〜〜あ」
「こら北斗、授業中にあくびをするな」
「うい〜す」
 ここは円の大陸の北地区にある、府の国の荒涼中学校。
 俺の名前は杉並北斗。ここの学校の三年生だ。
「あんたっていつも眠そうね。ちゃんと授業頭に入ってるの?」
「うるせー、大きなお世話だ」
 彼女は如月さやか、同じく三年生。
 性格はおせっかい。容姿は……まあ普通とだけ言っておく。

「キーン コーン カーン コーン」
 あぁ、今まさに俺を天界へといざなう鐘の音が聞こえる。
 身体の気だるさも、眠さも、なにもかもを一気に吹き飛ばすそれは、魔力でも込められてるんじゃないだろうかと思えるほどの効力。
 学校で一番幸福な瞬間。

「今日の授業はこれで終わり、また明日、それでは解散」
「あーあ、また明日も学校かよ。毎日勉強で気がめいるね〜」
 そう、今日の授業がすべて消化されたからといっても、また明日があるのだ。
 明日が来て欲しくねぇ〜〜。
「バカ言ってんじゃないの。あんた、ほとんど授業寝てるじゃない」
 いわれて気がつく。
「はは、それもそうだ」

 エムディーの電源を入れて、イヤホンを装着。
 もちろん曲はお気に入りのあれだ。

 ぎらり。
 炎熱の太陽が輝いている。
 今日も反吐が出るほど暑い。帰る気力さえも萎えるってもんだ。
 早く家に帰って冷房の聞いている部屋で涼しくジュースでも飲みながら音楽聴いて漫画も読んで勉強なんて忘れて肉体的にも精神的にも満足感を味わいてぇ〜!!
 なんて考えれば、自然と足取りも早まった。
 そういえば、夏休みまであと二週間きってるんだよな。ってことは今のうちに夏の計画立てておかないと……
 なんて考えていると。
 コツン。
 足先に何か固いものが当たった感触。

「何だこれ」
 右足の数センチ先に、黄色い球体が転がっている。
 ころころ、ころころ。
 俺はそれを拾い、太陽にかざしてみた。
 キラキラと、黄色い光が漏れた。
 うへぇ、無駄に暑い。

「綺麗だね、でもなんだろう?」

 さやかが言った。
 こんなのみるからに……
「キーホルダーという線が濃厚ですがお嬢様」
 からかいながら俺は答えた。
 少しばかりの殺気を感じたよ。
 ――と、そのときだった。  耳を劈く大轟音。背中のあちこちに当たる砂つぶて。そして強烈な突風と順を追って俺を襲ってきた。
 俺は急いで音が聞こえたほうを向いて、原因を探してみる。

 ……すぐ後ろ。
 すぐ後ろに巨大な穴が開いてるじゃないですか。
 クレーターか!? って言うほどでっかい穴です。
 俺たち二人が口を大きく開けて呆気に取られていると、後ろで声がした。

「おい」

 二人がまた振り返るとそこには真っ黒いフードをかぶった少年がいた。
 年齢は十歳ぐらいだろうか。フードが邪魔して顔がよく見えない。
 しかし見るからに怪しい。少年だけれども危険人物。動物の感が警報を鳴らしている。
「なんだ?」
 正直びびりながらも、俺は虚勢をはった。
「死にたいか?」
 ぬわ〜! やばいやばいやばすぎる!!
 こんな小さな子がそんな質問、少年犯罪の極みですか?
 これは逃げたほうが得策だ。プライドとか構ってられねぇ。
「死にたいかと聞いているんだ」
 声は……怒っている。
 あぁ、ここはまず相手の機嫌を取ったほうが宜しいかも。
「ああ、死にたくはないが……」
「なら私について来い。時間がない、理由はあとで話す」
 新種の人攫いですか?
 でもこれはついていったほうが良い。
 もしかしたら、毎日陸上部がトンボを引いてしっかりと整備しているグラウンドに、あのどでかい穴を開けたのはこいつである、という可能性は否定できない。あの発言内容からもそうだ。それを考えると下手に逆らえない。逆らっては駄目だ。逆らって次の瞬間木っ端微塵の肉片にはや代わり、なんて絶対嫌だ。
 それにしてもこの子は走るのが偉く速い。そのうえ全然きつそうじゃない。
 先に俺がへばりそう……
「しゃきっと走りなさいよ。ほらもっと早く」
 はいはい分かってますよ……っておい。
「な、なんでさやかが!」
「なんで、って。ついて来いって言われたじゃん」
「そういわれて、普通ついて行かないだろ」
「あら〜? 着いていってるのはどこの誰ですかぁ?」
 うぐ……痛いところをついてくるじゃねぇか。

 また後方で大きな爆発らしき音がした。人々の叫び声も聞こえる。
 俺は走りながら振り返った。またもやコンクリートに巨大な穴。
「何だってんだよ、一体全体?」
 そう叫びながらかなり速いスピードで走ってます。
 ふと、上空の何かが俺の視界に入った。
 飛行船……にしては形がいびつだな。
 だいたい真っ赤な飛行船なんて見たこと無い。
「なにあれ……」
 どうやらさやかも気がついたらしい。俺の疑問を口に出している。
「ちっ、振り切れないな。しかたがない」
 振り切れないって、あんたあれに追われてるんですか!
 なんて思っていると、少年はポケットの中から、さっき北斗が拾ったのとは色違いの赤い玉とグローブのようなものを取り出した。グローブの甲の部分には、くぼみがある。
 そして左手にグローブをはめて赤い玉をグローブのくぼみにはめこんだ。

「危ないからちょっと離れてろ」
 そう言うと左手の手のひらを黒い飛行船に向けた。
 初対面の人間に死にたいか? と聞く人が危ないって言ってるんですから、それはもうとんでもなくデンジャラスなんでしょうね。俺は潔く従いますよ。

 刹那、グローブに装着した赤い球が淡く赤い光を放ちだした。そして光は自ら意思をもっているかのように、かざした手のひらの数センチ前方に収束していくではないか。とともに、グローブにはめ込んだ球体は、光が収束していくのとは反比例して小さく、小さく縮小していく。それはまるで、球が光へと変化しているような、物質の状態変化のような、そんな感じに見えた。集まった光はというと、ある一点を中心としてぐるぐると不規則に回転している。回転しながら秒を追うごとにひとまわり、ふたまわりと巨大化していく。気がつくとそれは直径四十センチメートルほどの球体と姿を変えていた。
 火球――とでも言うべきか。 

 火……球……?

 うを〜!! なんですかこれは? いきなり火球? 君はスーパーサイヤ人? あぁ、これは夢か。なるほどな。だからこんな現実離れしたことも起こるんだ。なーんだ、コンナ悪い夢はさっさと起きないとな。
 あまりの出来事に冷静になっていた、もとい情緒・感情表現機能が活動停止状態になっていた頭が、トップギアとなって息を吹き返した。
 ――痛い。
 ほっぺたつねってみてもすんごく痛いです。しかも、さっきから熱波が頬に当たってます。夢じゃないっておっしゃりたいんですね。現実逃避も許されないのか。

 ドン。
 紅蓮の火の玉は少年の手のひらを離れて、一直線に黒い飛行船へと飛んでいって――
 当たる! と思ったときには、すでに爆音が響いていたあとだった。
 白煙がもうもうと立ち上っている。
 飛行船はぐらり――と揺れて、徐々に高度を下げていく。
 幸い、落ちていった場所は山の方角だ。
「ふぅ、民家に落ちなくて良かった。さあ時間がない、急ごう」
 少年はそう言うとまた走り出した。


 ――第二章――


 たどり着いたそこは、何かの研究所のようだった。見慣れぬ機械がいたるところにある。
「ようこそ、私の隠れ家へ」
 ここは府の国北東にある山中の洞窟、俺たちは少年に案内されてここまで来たのだった。
 山――といっても、うっそうとした森が生い茂ってる感じの山ではない。荒れ果てた大地がむき出しになっている、殺風景な山。
「まず何から聞きたい?」
 外の気温よりもだいぶ低い。ひんやりと冷たく、ぴんと張った感じの空気が肌に触れる。
「何って全部だよ。お前のことやさっきの飛行船のこと、火の玉だしたのとか。あ〜とにかく全部だ!」
 あくまでも強気。弱みなんて見せられない。
「そうそう、それになぜ私たちがあなたについていかなくちゃならなかったのかもね」
 つ……強い。全然いつもと同じ立ち振る舞いじゃないか。女って度胸あるよなぁ……

「まあそうあわてるな、自己紹介がまだだったっけな。
 私はリュエン、少年のように見えるがこれでも百二十歳だ」
「うんうん、やっぱりそれぐらいだった……って百二十歳〜!」
 百二十歳のところは二人でそろってしまった。
 信じられるかー! 嘘ついてんじゃねぇよ! って言うのは心の中だけ。
「本当だ。付け加えると、私は人間ではない。亜人といってな。もともとこの世界には存在しない種族だよ」
 ……はい? ナニヲイッテルンデスカ。子供だましも限度があるぞ。
「そして亜人は他の種族の心を読むことが出来る」
 ギラリと目線が痛い。
 ということは、さっきの心の叫びも今こうやって考えてることも相手に筒抜け――
 そこまで考えて、たらりと頬を冷や汗がたれるのがわかる。
 DEAD OR ALIVE。
「ははは、大丈夫だ。私は君たちをとって食べることもなければ、無駄に殺すことも無いよ」
 その言葉を聞いて、幾分か安心できた。
 嘘を言っているようには見えないので、とりあえず命の保障は出来たと考えていいだろう。

「命の保障まではまだできない」

 ……  少しばかりの沈黙。
「あれ……これキーホルダーじゃないんだ……」
 へーんだ、とさやかが呟いたのが聞こえた。
「それは宝玉と呼ばれるものだ。さっき使ったやつも宝玉」
「これは、何なんだ?」
「魔力を蓄積した、いわば魔道具と呼ばれるもの。これも元々この世界にないものだよ。やつらはそれを狙っている」
 なるほど、これを拾ったのが運の尽きってか? いや、冗談じゃねぇぞ。
 それに、さっきから無いものばっかり言いやがって。
「なんで存在しないものばっかりあるんだ? 矛盾しすぎてるだろ」
 第一、話にも無理がありすぎるだろう。ソラリスとか宝玉だとか、亜人だとか!
 いっきに冷静になった俺の頭は、物事を客観的にとらえることができる能力を思い出した。
「んー、関係ない人間にすべてを教えるわけにはいけないんだよ」
 少し癇に障った。
「関係ないってねぇ、あたしらおたくに巻き込まれてこんなとこにまでついてきたんだけど。大体ついて来いって言ったのもそっちじゃない」
 おぉ! いいぞさやか。俺の心の声を現実に投影してくれてるじゃないか。
「ふむ、その通りだが――君たちも死にたくはなかっただろ?」
「そりゃあ死にたいか死にたくないかって言われたら、明らかに後者だけど……」
「だったら何も文句言えんだろ」
 とりあえず納得。死ななかっただけマシといえるのかもしれない。だけど隣の人は全然納得して無いみたい。固く握りこぶし作ってるし、身体全体が小刻みに震えてます。
「ま、まあ落ち着けよ。な? 死んでないだけマシだって」
 必死になだめる。
 このままじゃ――

 またもやの爆発音。いい加減慣れてきた。
「見つかったか……戦うしか無いな」
 うは。またあんな危ない戦いするわけか。
 リュエンは隅に置かれていたダンボールの中から十数個の宝玉を取り出して、右腰にあるウェストポーチの中に詰め込んだ。左手にはすでに例のグローブが装着されている。戦闘準備だは整ったみたいだ。
 ばれないように少し拝借しておこう。と、俺の中の悪魔の部分がそうささやいた。
 天使の部分は今お休み中みたいです。
「崩れる、早く外に出ろ」
 リュエンが叫ぶ。確かにまだ小さな小石が落ちてくるだけだが、直に崩壊するのも目に見えている。
 立て続けの何かの爆裂音のなか、俺たちは外にめがけて突っ走った。
 間一髪、三人が外に出たまさにその瞬間。俺たちがさっきまでいた洞窟はガラガラと音を立てながら崩れた。あと少し遅かったら……ぺちゃんこか、と考えると顔が引きつってくる。
 外は明るくはなかった。むしろ少し暗い。俺たちが中で話している間に空のご機嫌はだいぶ悪くなったらしい。ゴロゴロと雷鳴までしている。今日はついてないからな……

「おや? 懐かしい人がいるねぇ」
 突然の声。
 三人同時に振り返る。
 そこにはまた子供……


 ――第三章――


 空は黒雲に覆われている。今にも振り出しそうな……
「そこの無礼なやつは何?」

   ……お、俺? 指差してる方向は俺か!

「誰でもいいだろう。しかし何故……何故貴様がここに」
 リュエンの顔はまさに鬼のようだった。目は釣りあがっていて、瞳には怒りの炎がくすぶっている。
 そして何より、全身からあふれ出る殺気。武術をたしなんでいる俺にはわかる。今にも殺しそうな勢いだ。

「んー? 誰か不始末でも起こしたんじゃない?」
「馬鹿な! 私はこの手で確かに貴様を殺した」
「ところが残念、それは僕のダミーだったってわけね」
 リュエんは驚愕といった表情を浮かべている。
 いったいこの二人の間に何が……
「あれ、僕と会うのがそんなに嫌だったのかい?」
 こいつの喋り方は耳につく。甘ったるい、それでいて嘲るような声。
「ひどいなー、五年ぶりの再会だっていうのに。そうそうそこにいるお二人さんに自己紹介しなくちゃね。僕の名前はベルザー。そこにいるリュエンと同じく、亜人ね」
「自己紹介なぞ、そんなものはいらぬ」
「なっ……」
 リュエンのほうを向いた時には、すでに発射したあとだった。
 速い。さっきとは比べ物にならない速さでの射出。
 目の前を赤い焔球が横切って――
 ベルザーにちょくげ……き? あれ?
 火球は空中に静止している。先ほどの初速はどこへ行ったのか。
 そうこうしていると、火球はどんどんとしぼんでいく。まるで風船がしぼむように。
 そして消滅してしまった。あとに残ったのは、左手を突き出したベルザーだけ。

  「僕が今日君の前に現れた理由は二つ」
 もうさっきの甘ったるい声ではない。
「一つ目はリュエン、君の抹殺だ。そしてもうひとつは……」
 今まで笑っていたベルザーの顔が、無表情になる。
「宝玉の奪取と、目撃者の排除」
 やばい、もうお気楽モードではやっていられない。
 あいつは多分、今までに何人も殺してきたのだろう。そして今本当に殺そうとしてくるだろう。目がそういっている。
「気をつけろ。やつも宝玉の使い手だ」
 こっちにそう叫ぶリュエン。しかし、まずい!
「リュエン後ろ!」
 遅かった。ベルザーはリュエンの肩に手をかけた。
「なっ」
「戦闘中によそ見するなんて、鈍った?」
 ベルザーが狂気的な笑みを浮かべた。
 閃光が走る。一瞬音がなくなった世界が訪れた後、もの凄い爆発音とともに、リュエンが吹っ飛んできた。
「やるねえ、リュエン」
 煙の向こう側から声が聞こえる。リュエンは――俺の右横で、手を地面について座っている。思ったよりは大丈夫そうだが、それでも肩の出血がそのダメージを物語っている。
「伏せろ」
 聞こえたか否か、反射的に体勢を低くした。
 カシャン――とウェストポーチから取り出したの赤色の宝玉を、リュエンは左手のグローブにはめ込んだ。何も無い煙に向かって握りこぶしを作っている。
 同時に、煙の中から紫色の透き通った球体が一直っ線に飛んでくる。
 
 凄まじい熱量でリュエンの手から放出された火炎が、一直線に伸びて紫色のそれを包み込む。
 またも爆発――おそらく誘爆だろうが、だいぶ小規模な爆発だった。
 ――が、一転もの凄い量の白煙。視界がさえぎられた。
「しまった、目くらましか!」
「気がつくのが遅かったね」
 煙をまといながら、ベルザーが姿を現した。距離にして三メートルも無い。
 左手には、多分氷で作られているのであろう刀状の物質が一メートルほどの長さとなってまとわりついている。刃先は――鋭い。
 俺はすぐさま体勢を立て直すと、氷刀に全身系を集中させた。リュエンは――座って右手を地面に付けたままの、不利な体勢。
 振り下ろされる氷刀。
 リュエンはとっさに身体を左にそらしたが、それはもう遅かった。
 真っ白な世界。シルエットが腕を切断した。
 ズバッ、と鈍い音が聞こえた気がした。本当は稲妻の落ちる音で、何も聞こえてなかったのだけれど。
 血は赤かった。
 噴出す血がベルザーの顔を赤く、紅く染めていく。苦痛で顔をゆがめるリュエン。きゃあぁあああ、とさやかの叫ぶ声が聞こえる。
「うっ……ぐ……」
 あぁなんだ、今どうなっているんだろう。切り落とされている右腕はあまりにも現実感がなくて。ぐにゃりと世界がゆがみ、急激に吐き気を催した。
 リュエンは血で真っ赤になった左手だけで水色の宝玉を取り出して、口でくわえてグローブにはめ込んだ。そして震える左手を右腕の切断面に当てている。と、切断面が一瞬にして凍った。なんとか止血は出来たみたいだ。
 切り落とされた右手は二回ほど反応したあと、動かなくなった。白い骨が見えている。
 ベルザーは恍惚の表情を浮かべている。さやかは泣いている。リュエンはもう戦えないだろう。
 そう考えると、さきほど隙をついて段ボール箱から持ち出したグローブを、無意識のうちに左手にをはめていた。ここで逃げても殺されるだけだ。だからといって勝てるわけでもないのも分かっている。球の使い方なら大体分かった。左手のグローブにあるくぼみにはめ込むんだ。だけどそのあとは知らない。知らないけどやるしかない。助かるんだ。助けるんだ。
 止めを刺す一撃が振り下ろされる前に、叫んでいた。
「やめろおおお!」
 ピクっと反応したベルザー。まだ間に合った。
 左手を開けて、ベルザーに向けて突き出した。セットした宝玉は、右ポケットに入っていたあの黄色いやつ。出ろ。出てくれ。炎でも氷でもなんでもいいから出ろってば。
「見苦しいな」
 冷たい声が聞こえた。哀れみと軽蔑が混ざったそんな声。でも、どうだっていい。
 そんなことはどうだっていいんだ。
 なんだ、どうしてでない。あいつらは出してたじゃないか。何でだよ!
「鬱陶しい奴は嫌いだ。先に殺しておくか」
 攻撃対象が俺に移った。望んでそうなったんじゃない。
 だけど――ちらりと後ろに目を遣る。さやかが怯えている。がたがたと震えている。なんだかんだといってもやっぱり女だな。リュエンも戦えない。あの傷ではしょうがない。俺がやるしかない。俺しか可能性は残されていない。
 何でこんなところで死にそうになっているんだろう。日ごろの行いも別に悪くない。あ、毎日授業中に爆睡しているか。でもこれとは関係ない。やっぱり俺は悪くないよな。悪いのは偶然の神様だ。自分でも何を考えているんだろうな。もうやけになったのか。はは、そうだその通りだ。これでやけにならないほうがおかしいんじゃないか。だからこれで正常なんだ。怖い、怖い、怖い。

「君にはとっておきを使ってあげる」
 そう言って、ベルザーはどこからか漆黒の、光をすべて吸い込んでいるようなそんな宝玉をとりだした。
「痛みも感じないよ」
 聞き取れた言葉はそれだけ。あとは聞こえなかった。小声でなにかぶつぶつ言っている。唱えているようにも見える。やらなきゃやられる。直感でそう感じた。震える身体にムチを打った。
 足が地面を蹴った。一直線にベルザーに向かって走りだす。右手を強く握った。この手でぶん殴るしかない。体術もそれなりに出来ると思う。思ってる。
 
 あれ――
 気がつくと俺は、ベルザーの脚しか見えていなかった。
 何で俺は、芋虫のように地面に這いつくばっているんだろう。それに苦しい。視界も狭まっている。世界がぐるぐると回っている。何が起きたのかわからない。
「ふふふ、君には憎しみの中で死んでいってもらおうか。見せしめだ」
 何? 今あいつはなんていった。見せしめ――
 逃げろさやか! と言おうとしたが声が出ない。口を金魚みたいにパクパク動かすことしか出来なかった。目がかすむ。でもベルザーとさやかの姿ははっきりと見えた。さやかは相変わらず震えている。なにやってんだよ。逃げろって!
 ベルザーが一歩一歩さやかに近づいていく。
 やめろ。それ以上近づくな。少しでも触ってみろ。俺は絶対許さないぞ。
 すべては思うだけ。行動に移せない。言葉にすら出来ない。俺はなんて無力なんだろう。
「無力なゴミは這いつくばって死んでゆけ」
 カシャン――
 あの独特の、宝玉をセットした音がした。
 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめ……

 断末魔の叫び声。それをかき消す無常な爆発。
 うわああああああ!
 もうどうにかなりそうだった。心の中はぐちゃぐちゃだった。苦しかった。奴を殴ってやりたかった。奴を殺してやりたかった。でもそれは無理だった。身体が動かない。涙さえもでない。
 意識が遠のいていく。暗い暗い奈落のそこへと落ちていく。冷たく暗い底の無い世界へ。
 もう、何も感じない。生きているのかさえも分からない。さ……やか……


 ――第四章――


「あとはリュエンだけっと」
 彼は勝利を確信していた。右手のないリュエンなんて恐れるに足りない存在だったからだ。
「楽な仕事だったな」
 ピカっと一瞬の閃光。落ちたのはすぐ後ろ。だけどベルザーは振り向きもしなかった。彼の目にはリュエンだけが見えていた。


 ――第五章――


 トクン、トクンと聞こえる鼓動。ふっと蘇る意識。色を取り戻した空。相変わらずどす黒い。俺の中の何かが切れた。それは自分でも分からない。でも、身体が軽くなった。みなぎる力。苦しさもどこかへ消えうせた。宝玉の扱い方も自然と分かる。そう、何年も前から知っているかのように。そして俺のなかに流れ込んでくる感情。悲しみと憎しみと怒りをどろどろと混ぜ合わせたようなこの感情はなんだろう。いや、それもどうでもいい。いまならできる。根拠は無い。でも確信はあった。

 奴を――倒せる。それこそ花を摘むように。

 十四秒。次の雷が落ちるまであと十四秒。たぶん、そうだ。いや、絶対そうだ。
 俺は左手をベルザーに向けた。やつは気こちらに気がついた。しかし、遅い。まずは一発。
 ぴりぴりと帯電をまとった俺の左腕から、二百万ボルトの電流が束となってほとばしる。命中するか否か、間髪いれず地面に手を当てる。目測はベルザーのすぐ前。今度は一ボルトにも満たない電流を地面に流す。電流は地面を伝ってベルザーの前を通過――しない。そこで空気中に放電させるからだ。電気の速さはつまりは光速。光速での移動術。
 がぁあ、と言って感電しながら倒れこむベルザー。容赦はしない。俺は左手をベルザーの胸に当てた。まずは四千ボルト。そのまま体勢を低くして、手を置いていたあたりを靴の裏で思い切り蹴り上げる。三メートルほど浮き上がった身体に叩き込む拳。突き上げた右拳を軸に、だらんと垂れ下がるベルザー。そこに左手も添える。ぴったり十四秒。俺は残っているすべてのエネルギーを振り絞った。四億ボルト。落ちてきた雷がベルザーを捕らえる。十億ボルト。足して十四臆ボルト。

 そこには黒く焼け焦げた物体が残っていた。もはや原形をとどめていない。死体とも呼べない。だから物体。俺がそこまでした。

 そしてまた、急に意識が遠のいた。


 ――第六章――


 ガバッ――

 俺はいきおいよく起き上がった。
「いつつ」
 全身のあちこちが痛む。骨が軋みをあげて筋肉が悲鳴を上げていた。
「ここは……」
 見たことのある部屋の間取り。家具。ここは――

「やっと起きたわね、まる二日間寝てたのよ」
 さやかの声。あぁ、そうだ、さやかの家。
 ……ん? さやかの声? ここは天国か、はたまた地獄か。
 恐る恐る声が聞こえたほうを向いてみる。
「まるで幽霊でも見ている顔ね」
 そこにはさやかがいた。首には包帯が巻かれている。顔にもガーゼがはってある。痛々しい姿だったが、今目の前にいる。夢じゃない。現実だ。
「お前、ベルザーにやられて死んだはずじゃぁなかったのか」
「ああ、あれはね……」
「私が救ったのだよ」
 ひとつの声がさやかの発言をさえぎった。この声の主も知っている。酷く懐かしい感じがする。何故だろう。
「リュエン」
 彼は椅子に座っていた。コーヒーも飲んでいた。左手で。右手はなかった。肩には包帯が巻かれている。
「大丈夫だったのか」
「あれしきでは死ねんさ、私にはまだやることがあるのでな」
「で、リュエンが救ったってどういう意味だよ」
「ああ、さやかが殺されそうになった時に、弱めの炎球をさやかの体に当てて吹き飛ばしたのだよ。それで直撃を防いだのさ」
「な〜んだ、死んでなかったのか、よかったー」
 自然と漏れる安堵のため息。そして気がついた。俺は――泣いている。
「うわーみっともない。大の男が人前でぽろぽろと」
 さやかがからかってくる。でも、いいんだ。本当によかった。本当に皆生きていてよかった。こんなにも心の底から嬉しいことなんて、今までにあっただろうか。俺も生きてるし、さやかも生きてる。リュエンも生きてる。皆生きているんだ。
 そのあと俺は、数分間涙と笑いが止まらなかった。


 ――第七章――


 結局あのあと、リュエンはどこかへと姿を消した。ちゃっかり俺のもっていた黄色い宝玉も持っていった。あの宝玉の属性は雷。さらに宝玉の中でも特別だったらしい。それにたまたま落ちた雷で魔力が増大。ついにはそれが俺の能力、彼が言うには魔制御力を大幅に引き出した結果、今生きているとのこと。つまりは俺の力ではなく宝玉の力。宝玉の膨大な魔力に操られていただけだということをリュエンは説明してくれたが、俺にはさっぱりわからなかった。そしてグローブのことも亜人のこと、他のなにもかもを説明せずにリュエンは姿を消した。

「北斗ー、なにやってんの。学校に遅刻するわよ」
「はいはい、今行くよ」
 俺は手に持った日記を引き出しの中にしまった。今はあの出来事から一年後の夏。高校の夏。まただらだらと暑い。でも、だからといってあんな冷や汗をかく出来事はもういらない。

 蝉が五月蝿く鳴いている。だけど、俺はエムディーを持ったから苦にならないだろう。
 今年の夏は静かになりそうだ。









 fin
 


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